はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
夜遅く、部屋の前に誰かが来た。



「若菜ちゃん、ちょっと良いかな?」



この家で、私のことをちゃん付けで呼ぶのは…婿養子の父だけ。



私が無視しても、父はそのまま話し続ける。



「お祖父様にも言われていることだし、そろそろ再開しないか?」



どう考えても、書道のことだろう。



書道家の孫が練習をサボりまくってるなんて、門下生には知られたくないもんね。



「このままじゃ、お祖父様に叱られてしまうよ。」



「叱られて困るのは、アンタだけ。」



開けて良いなんて言ってもいないのに、父が襖が開いた。



香水の匂いが漂ってきた。



「ふーん、今日も女と会ってたんだ?」



父は慌てた様子で、人差し指を口にもっていく。



そして…あの時と同じように、私の手にお金を握らせた。



「考えといて、ね?」



父はそう言うと、部屋から去った。



父の不倫を知った時も、父は今みたいにお金を握らせた。



父のことは、結構好きだったんだよね…。



私は握らされたお金を机の上に置くと、布団に潜り込んだ。



明日の昼には、書生あたりが見つけてこっそり持ち出すだろう。



この家は、病んでる。



多分、私も…。





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