だから何ですか?
「亜豆・・・、ん?『アズキ』何て読むんだ?」
自分のデスクのパソコンの画面を見つめ、『亜豆 凛生』と表示されるそれに眉根を寄せて椅子の背もたれに身を預ける。
読み方が分からないと目を細め、椅子を軽く左右に回転させながら目を細めて仕事以外に集中していれば。
「伊万里さん、2-3のカラー本持ってませんか?」
「あ、悪い、ここに、」
ひょいっと俺のブースに顔を見せてきたのは同じ部署の同僚で、小柄な体と愛くるしいと言える感じの女。
髪はスッキリとしたショートスタイルで、性格も良く男女問わず彼女を毛嫌いする人間はいない。
仕事も気遣いも出来る、女だという事を盾にしない、そんな彼女はこの部署でもマスコット的な存在と言えてしまう程だ。
「あ、仕事サボって何見てたんですか?社員名簿?」
「サボってません。ひと段落着いたブレイクタイムだったんだよ」
そう言って飲みかけのコーヒーカップを持ちあげ示しながら彼女の目的であった本を差し出した。
「あっ、そうだ、小田っち。これ、何て読むんだ?」
「ん~?ああ、秘書課の亜豆さんですよね」
丁度よかったとばかり、自分を悩ませていたモノを示してパソコンの画面をコンコンと小突くと、更に身を乗り出し名前を確認した彼女が記憶している姿を思い浮かべたらしい。
そのまま、『亜豆、亜豆・・・なんだったかな、』なんて呟きながら思案している姿をコーヒーを啜りながら眺め、その視線を自分もパソコンに移したタイミング。