だから何ですか?
そんな事を考えながら短い通路を歩き賑やかな空間に開ける手前、思考に集中しすぎて目の前に意識がお留守であったらしい。
ドンッとぶつかった衝撃で我に返り、同時にカチャリと何かが落ちた音や「きゃっ」という声にさすがに焦って『すみません』と真っ先に声が出る。
足元を見れば自分のつま先のあたりに化粧ポーチらしきものが落ちていて、どうやら音の正体はこれだったらしい。
それを拾い上げようと身を折り曲げたのはぶつかった相手とほぼ同時。
ポーチに同時に指先触れさせた場面なんて客観的に見ればよく出来た映画の1シーンの如くだったのではないだろうか。
そうして『あっ』声を響かせ軽く手を引く場面であっても。
その過程を経てようやく視線を相手に向けて、再び弾いた『すみません』の響きは最後まで音になっていなかったと思う。
至近距離で絡んだ双眸、捉えた姿に見事固まり不動になる。
そんな俺とは別に『あっ』と言いつつもさして表情は変えず、手にしたポーチを片手に体を起こした姿はエレベーターで遭遇したままの姿と言えよう。
さすがに体を折り曲げた状態で彼女を見上げるのは身体に苦痛を伴う姿勢で、自分もすぐに背筋を伸ばすと予想外の遭遇に素直に驚愕。