だから何ですか?
「あっ・・・」
エレベーターに乗り込んですぐに響かせた自分のそんな声に、元々乗り合わせていた相手が操作盤に手を添えたままチラリとだけ俺を一瞥。
そんな視線に見事記憶が擽られ、その記憶もあってか愛想を返そうとも思ったのに。
フイッと外された視線は操作盤の数字を見ているのだろうか?
まるで知らない相手にするような意識の対応に何でか肩透かしを食らった様に1人もどかしい。
微妙なやり場の困る感情を胸の内にそろりと奥に進んで、自然な流れとして向きを扉の方へ返していく。
そうして狭い視界に捉えるのは、操作盤の前に立つ彼女の華奢な後ろ姿だ。
「あの、」
「あ、何?」
捉えて早々にうっかり見つめてしまっていた後ろめたさというのか、突如狭い空間に響いた自分への声かけにナチュラルとは言えない口調で反応をしめしてしまったかもしれない。
でも、過剰にオドついたわけでもなく、僅か驚愕と・・・微々たる期待もどきの様な。
「20階でいいですか?」
「・・・あ、・・はい」
自分でもわかる。
もの凄く、間の抜けた様な反応と声音であったと。