だから何ですか?
「・・・参る」
「えっ?」
「・・・・カッコイイまで持ってくなよ」
「伊万里さん?」
敵わないと、不敵な笑みの亜豆の肩に頭を預けて、細身の体を抱き寄せ『あ~』っと抑揚のない声を響かせる。
非常階段の反響しやすい場所ではその声が思ったより大きく聞こえ、自分の声が自分を嘲るように返ってくる事にも苦笑い。
「俺一人・・・不安になって焦って自棄になって・・・情けねぇじゃん、」
結論・・・そういう事。
でも、自分でも驚くほど、不安になって焦って自棄になるほど、亜豆に対する執着が本物って事なんだ。
「・・・うん・・・俺って・・超お前の事好きなんだな」
改めて分かったわ。
と、しみじみ感じたままを口から零して息を吐く。
ああ、シトラスの匂いがここ数日のもどかしさで疲労した心を癒してくる。
とっくに就業時間であるのに、仕事とかもうどうでもよくなるなんて人としてどうなんだ?なんて感覚で堕落していれば、
「・・・カッコイイですよ」
耳の近くでストンと落とされ鼓膜に直に響くような亜豆の声音。