だから何ですか?



この歳になって今更恋一つにあたふためいて戸惑って、冷静を失ったりときめいたりなんてしないと思っていた。


なんとなく気が合って、無理がなくて落ち着いて。


せいぜいそんな恋愛をして結婚をして・・・いや、むしろ仕事に没頭したまま一人を謳歌するものだと思っていたのに。


恋愛初心に引き戻された。


初めて恋愛に向き合い戸惑う様な。


一つ一つは新鮮で思う様にならなくて、難しいと感じて思い悩む癖にやめられない。



「・・・・亜豆」


「はい?・・・・っ!?ふぅあうぅっ!!?」



だから、声デカいっての・・・。


目の前にあった耳に唇を寄せれば、相変わらず耳が弱いのだと分かる過剰な反応にクスクス笑ってしまう。


そんな俺にビクビクと身をすくめ警戒する姿さえ虐めたくなるほど愛らしい。


愛らしいが・・・、



「・・・・ありがとう」


「えっ?」



なんとなく言いたくなった響きを耳に直に吹き込めば、その言葉の意図を探るような疑問の声音が返される。


でも、特別答えになる言葉は返さずにようやく預けていた頭を持ち上げ亜豆の顔と対峙する。


至近距離を更に狭めて、焦るでもなく顔を寄せると額が触れて。


そのまま唇まで重ねようとし、まさに重なる寸でだろうか。


お約束の如く静かな空間に鳴り響いた携帯のバイブ音には思わず小さく噴き出し苦笑い。





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