だから何ですか?
鳴ったのは亜豆の方の携帯で、『あっ、』とさすがに慌てた感じにポケットからそれを取り出した亜豆が『ヤバい』と言いながら俺を確かめる様に見つめてくる。
言いたい事は充分に分かって、
「行けって。悪い、忙しいのに振り回して」
激務である事は知っていたのに自分の感情任せに振り回して悪かったな。
お互いにまだどこか離れがたいし色々と話したいことはある。
でも現実問題今は勤務時間でプライベートに裂く時間はない。
それは自分も同じでさすがに仕事に戻らないとまずいだろう。と腕時計を確認していれば、『すみません』と言って扉に手をかけ急ぎ足の彼女。
俺も部署に戻って企画の確認しないと。なんて徐々に頭が仕事モードに切り替わっていたタイミング。
「あっ、伊万里さん、」
「んっ?」
扉から身を出しかけて、すでに視界から消えかけていた亜豆が再びヒョコっと姿を戻して。
それに意識を自分も戻すと。
「仕事終わったらウチに行きましょう」
「はっ?」
「詳しい事はまた、」
あっ、おい、なんて声掛けは多分亜豆には聞こえていなかったんだろう。
閉った扉の向こうからフロアを走る靴音が響くほどの急ぎっぷりだ。