だから何ですか?
ああ、あの件で担当に電話して__。なんてことを考え踏み出し入り口に向いていた足。
一歩も踏み出していただろうか?
「っ・・・・」
不意に思わぬ力に引き止められ、その力が働く背後を振り返れば相変わらず視線はこちらにない横姿なのに、その手はまっすぐ俺に伸びて服の端を掴んでいる。
その仕草だけでも仕事モードに入りかけていた意識が引き戻され、絆された感覚でゆるりと口の筋肉が緩むというのに。
クールにみせていた横姿がどこかもどかしそうに、躊躇いがちにその視線をそろりそろりとこちらに移して。
そんな風に躊躇いがちであった癖に絡めば微塵も逸らさず見つめ抜いてくるのはいつもの事。
「本当・・・別に、気にしてません」
「えっ?」
「・・・仕事に夢中な伊万里さん・・・好きなんです」
「・・・・お前、」
「無自覚じゃないです」
「・・・・」
「自覚して・・・煽ってます。・・・・仕事馬鹿な伊万里さんが好きだけど・・・充電ください」
「っ・・・・・お前はぁぁ・・・」
馬鹿はそっちだ。
極度の【俺馬鹿】だろうがお前は。
「俺なんかに何で惚れたんだバーカ」
男見る目ねぇよ。
そんな悪態的な言葉を弾く癖に、感情に素直に体は動く。
俺の服を摘まんでいた亜豆の手を掴み引き寄せて、近づいた姿の頭に腕を回しながら口づけた。
相も変わらずお互いに煙草の味鮮明なキスだと思うも、それが癖で依存しているから不思議だ。