だから何ですか?
♧♧♧♧
「フフッ、・・・だってさ、」
自分で強制的に終了させた通話の名残を確かめる様に見つめていた携帯から静かに視線を動かし声を弾く。
「『手を出すな』・・・ねぇ。
それはさ・・・こんな風に自ら腕の中に飛び込んできた場合も出した事になるのかねぇ?」
クスクス笑って見下ろすのは腕の中でしっかりと自分の体に腕を巻きつけている亜豆の姿。
残業も終わって社長室で彼女の姿の回帰を待っていれば、突如勢いよく動揺しきった姿で部屋に駆け込んで、理由も述べずに抱きついた。
それは今も健在で、ギュッと縋るように抱きつき、その頬までしっかり俺の胸に押し付けている彼女の頭を柔らかく撫でて覗き込む。
「・・・【凛生】、」
「・・・・・もう少し」
「そ?まぁ、本人が望んでるんだから『手出した』のカウントにはならないよね」
ククッと笑って目を細めると、携帯をポケットに戻してその手も彼女の体に添わせて抱き寄せる。
相変わらず細く華奢、背中に回した手に絡む彼女の長い髪の柔らかい感触も相変わらず。
「とりあえず・・・家に帰ろう?凛生の好きなアップルミントの香りのお湯でも張って入るといい」
好きでしょ?と彼女の意識を引くような事で誘導すれば、静かに頷いてようやく離れた姿はだいぶ赤味は引いているけどまだまだ興奮健在と言うところか。
そんな姿を宥める様に背中を撫でて、彼女を誘導しながら社長室を後にした。