だから何ですか?






まるで何事もなかったかのように、


いつも通りに、


でも、あった事はなくならない。


お互いにその記憶は鮮明だろう。



「亜豆は・・・本当掴めない」


「そうですか」


「シレッと来れちゃいますか」


「来ちゃいましたね」


「逃げたくせに」


「逃げたんじゃありません」


「・・・・そうなの?じゃあ、なんなの?」



人を突き飛ばして振り返りもせず真っ赤な顔で逃げておいて。


そんな風に思いだして意地悪く緩く口元に弧を描き煙草を噴かし横目で亜豆の姿を捉える。


どう言い訳するのか。クスリと笑ってその返答を待っていると。



「予習しに帰ったんです」


「フハッ、予習?」


「難しい問題にいきなり当たった。・・・当然焦って戸惑って予習もしてなかった状態では答えられる筈ないでしょう?」


「まぁ、一理」


「だから、予習しに帰ったんです」



相変わらず、動じないねぇ。


動きがあるのは彼女の唇と噴かれて漂う煙草の紫煙と。


色気があるのか無いのか。


どう見ても普通であるなら一悶着あった男女の駆け引きの場面。


でもきっと、亜豆にそんな駆け引きの意思は皆無なのだ。

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