だから何ですか?
今日も高めのヒールをコツコツと響かせ、何事もなかったように背筋の伸びた後ろ姿を印象的に俺に向ける。
さっきまで縋るように抱きついて甘えていた姿とは大違い。
アレ?俺の痛い妄想じゃなかったよな?なんて事まで思ってしまう程余韻なく去る姿にひたすらに呆然。
何回目のデジャブだ?
と、肩透かし感半端なく、欲求不満を逃すように新しい煙草を咥えた瞬間。
「忘れてました」
そんな風に少し離れた距離から響いた言葉に意識を移し視線を動かし、捉えた亜豆は扉に手をかけたままこちらを向いていて、
「大好きです」
「っ・・・」
「・・・お先です」
思わず口から咥えていた煙草が落ちた。
こちらに向けられたのはいつもの淡々とした無表情でも恥じらい悶える赤ら顔でもない。
でも、酷く愛らしい・・・満面の笑み。
計算もなく、素直に感情のままに笑って言葉を発して。
そんな姿にものの見事意表をつかれて・・・撃沈。
なのにそんな俺をお構いなしにサラリと背を向け建物の中に消えていく亜豆はどこまでも、
「反則だろ・・・」
何でなんだ?
どう考えてもこういった事に手練れなのは俺の方だろうに、知らず知らず攻守交替で振り回されて終わるのは俺な気がして。