湖にうつる月~初めての恋はあなたと
それにしても亜紀に断られるなんて考えてなかったからどうしよう。

あと頼めるとしたら、秘書の相原さんしかいない。

相原さんは私より随分先輩だけど、付き合いも長いし可愛がってもらっていたから1年ほど前に一度泊まらせてもらったことがある。

だけど、急に泊まらせて下さいとなると相原さんもその理由を絶対聞いてくるはずだ。

どうやってその理由をはぐらかすかがまた悩ましい。嘘のつけない人間というのはこういう時不便だと思う。

でも、厚かましいのはこちらだから誠意を見せないと泊めてもらえないよね。

思い切って相原さんにメールを打った。

【今晩泊めてもらえませんか? 谷浦】

秘書は午前中は忙しい。

お昼休み一番にメールの返信が届いた。

【何事?!今夜はゆっくり話聞きましょうか】

さすが心の広い先輩。皆に慕われる所以だ。

本当にありがたい相原さんの返信に思わず全部話して甘えてみたい気持ちになる。

相原さんには丁寧にお礼のメールを送った。

午後七時に本社ビルの下で待ち合わせ、電車を乗り継いで相原さんが一人で住むマンションに向かった。

一人で住むには十分な程の広さのある2LDK。

「ちらかってるけど入って」

相原さんは手早く玄関の靴をシューズボックスに片づけて先に部屋に入って行った。

「おじゃまします」

私はゆっくりと玄関の廊下を抜け相原さんの後を追うようにリビングに入る。

散らかっているというけれど、以前と同じように整然としている部屋はフローラルのいい香りがしていた。







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