湖にうつる月~初めての恋はあなたと
帰りに駅前のコンビニで買った弁当を二人で広げた。

「これは私からの差し入れ」

と言って相原さんは缶ビールを私に手渡す。

「急にお邪魔したのに何から何までありがとうございます」

私は相原さんとビールを突き合わせながら頭を下げた。

「で、谷浦さんはどうしたの?」

ビール片手に肩肘ついたまま尋ねられる。

興味本位ではない温かい眼差しに相原さんになら打ち明けてもいいような気がした。

澤井さんの名前を伏せたまま、彼の家から飛び出してきた理由を簡単に話す。

「ほら、やっぱりぃ!最近きれいになったと思ったらそういうことだったのね」

相原さんはにこにこ笑いながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「でも、谷浦さんはまたまだねぇ。そんなことで彼とはもうやってけないなんて思うんだぁ」

「そんなこと?」

あまりにもあっさりと返されて思わず聞き返す。

「だって、過去にいくら拘ったところでどうにもならないじゃない。要は今と未来が大切なんじゃないの?タイムマシンがあれば過去に戻って修正できるだろうけどさ」

相原さんは敢えて明るく言ってくれているようだった。

そのせいか、私も笑えてきてしまう。

さっきまでのどんよりとした空気が相原さんの一喝で徐々に澄んでいくのがわかる。

「今の彼に不満があるならいくらでも言ってやったらいいけど、今の彼には不満はないんでしょう?」

「・・・・・・はい」

「谷浦さんに話すタイミングを見計らっていたのも、あなたを知ればこその判断だと思うしそれは愛からくる優しさだわ」

優しさ。

「信じてあげたら?彼のことをもっと」

澤井さんのこと何もかも信じられなくなっていたのは私の嫉妬が私の判断を狂わせていたせい。

相原さんに言われて、冷静に聞いてみたらそんな当たり前のこと、どうしてあの時わからなかったんだろう。

「そうですね。相原さんのおっしゃってるとおりだと思います。私、何やってんだろ」

「いいのいいの!そうやって、ちょっと彼と距離を置いてクールダウンすることも必要よ。結果オーライ、さ、2本目開けるわよ!」

相原さんはそう言うと、立ち上がり冷蔵庫から缶ビールを2本取り出した。
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