湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「父は?」

山川さんは私に「大丈夫」と前置きしてから話し始めた。

「昨晩、お父さんがまんじゅうの仕込みをしている時に急に片腕が動かないって言いだしたの。しばらくすると動くようになったからもう平気だって言ってたんだけど、私、自分の叔父が同じような症状で脳梗塞だったことがあったから念のため診てもらいましょうって救急車を呼んだの。救急車が来る直前、お父さんがまた片腕が痺れて頭が痛いと言い出してね。救急隊員がすぐに大きい病院へ搬送しましょうということでこちらに来たの。それが丁度夜中の十一時半くらいだったかしら」

山川さんは話しながらずっと私の手を擦ってくれていた。

「やはりお父さんは脳梗塞だったの。だけど幸い早期に発見され治療にかかったからリハビリも入れて20日ほどの入院で退院できるそうよ」

父は無事だったんだ。

「はぁーよかった」

一気に固くなった体の線がほどけていく。

「山川さんがいてくれたなかったら今頃父はどうなっていたか。本当にありがとうございました。私が勝手なことばかりしてるから父にストレスを与えてしまったのかもしれません」

山川さんの手をぎゅっと握り締め、頭を下げた。

「お父さんはそれはそれは毎日のように『真琴は大丈夫だろうか』『今日は泣いて帰って来るかもしれないから玄関の鍵はかけないでおこう』とかそんなことばかり言ってたわ。そんなに気になるなら連絡してみたら?って言うのにしないのよ。今回のことも絶対真琴ちゃんには言うなって。心配かけたくなかったんでしょうけど、ほんとどうしようもない頑固親父だわね」

そう言うと、私の頭を優しく撫でならが苦笑した。

「父に会っても大丈夫かな・・・・・・」

「もちろんだわ。きっと一気に元気になるんじゃない?それに、お父さんはお店のことをすごく心配しているの。店を一ヶ月ほど閉めることになると、自分のお菓子を楽しみにしてくれてるお客さんに申し訳ないって。それに皆離れてしまうかもしれないって」

「そう、ですか・・・」

何よりも店を大事にしてきた父がそう思うのは当然だと思った。

だけど、山川さん一人にお願いして店を開けるのは無理がある。

私が手伝いにいくことができたなら、普段のようにはいかないけれど僅かのお菓子でも店に出すことができるかもしれない。

「父に叱られるの覚悟で話してみます。私にできることさせてほしいって」

山川さんは頷いて私の肩に手を当てた。





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