湖にうつる月~初めての恋はあなたと
父の病室が近づいてくるにつれ、私のドキドキはマックスになる。
それに引き替え、澤井さんはとても穏やかで落ち着いた表情をしていた。
病室の前で深呼吸すると、扉をノックしゆっくりと開けていく。
「お父さん?私」
「ああ」
父の相変わらず無愛想な声が響いた。
部屋に入ると、父はベッドから体を起こして難しい顔をして新聞を読んでいた。
老眼鏡をすっと上げて私達の方に視線を向け、私の後ろに立っている澤井さんに気がついた途端、険しい表情になり、新聞をサイドテーブルに置いた。
「ご無沙汰しています。澤井です。以前のこと、大変失礼したままになっており申し訳ございません」
澤井さんは、丁寧に言うと父に深く頭を下げた。
「真琴、気分が悪くなったから、申し訳ないが澤井さんにはお引き取り願ってもらいなさい」
「お父さん!」
やっぱりだ。
父は腕を組むと、私達からそっぽを向き微動だにせず窓の外をにらみつけていた。
「これ、澤井さんからお見舞いのお花頂いたのよ。そんな失礼なこと言わないで」
私は彼からもらったアレンジメントを父の前に持って行き、そばにあったテーブルに置いた。
すっとその横に澤井さんが並ぶ。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。本来ならもっと早くこちらに来るべきだったのに、お怒りなのはごもっともです」
彼の頬が僅かに紅潮していた。
「全くだ。俺はお前に真琴を預けた。それがどうだ、早々と戻って来やがった。俺の思っていた通りだ。それで、また今日二人で一緒に来るなんて一体どうなってるんだ。振り回すのもいい加減にしてくれ。所詮澤井ホールディングさんの息子さんとうちの娘ではどう考えても不釣り合いですよ。これ以上娘に傷を付けたくないんでね、ここはお引き取り下さいませんかな」
父の布団の上に投げ出された握り拳が震えている。
「あの時の、僕の判断は早まっていたと思います。もっときちんとお父さんにわかってもらってから進めるべきでした。でも、あの時も、今もずっと真琴さんを大切に思う気持ちは変わりません。これから先も変わることはないとはっきり言い切れます」
父はちらっと彼の方に視線を向けた。
それに引き替え、澤井さんはとても穏やかで落ち着いた表情をしていた。
病室の前で深呼吸すると、扉をノックしゆっくりと開けていく。
「お父さん?私」
「ああ」
父の相変わらず無愛想な声が響いた。
部屋に入ると、父はベッドから体を起こして難しい顔をして新聞を読んでいた。
老眼鏡をすっと上げて私達の方に視線を向け、私の後ろに立っている澤井さんに気がついた途端、険しい表情になり、新聞をサイドテーブルに置いた。
「ご無沙汰しています。澤井です。以前のこと、大変失礼したままになっており申し訳ございません」
澤井さんは、丁寧に言うと父に深く頭を下げた。
「真琴、気分が悪くなったから、申し訳ないが澤井さんにはお引き取り願ってもらいなさい」
「お父さん!」
やっぱりだ。
父は腕を組むと、私達からそっぽを向き微動だにせず窓の外をにらみつけていた。
「これ、澤井さんからお見舞いのお花頂いたのよ。そんな失礼なこと言わないで」
私は彼からもらったアレンジメントを父の前に持って行き、そばにあったテーブルに置いた。
すっとその横に澤井さんが並ぶ。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。本来ならもっと早くこちらに来るべきだったのに、お怒りなのはごもっともです」
彼の頬が僅かに紅潮していた。
「全くだ。俺はお前に真琴を預けた。それがどうだ、早々と戻って来やがった。俺の思っていた通りだ。それで、また今日二人で一緒に来るなんて一体どうなってるんだ。振り回すのもいい加減にしてくれ。所詮澤井ホールディングさんの息子さんとうちの娘ではどう考えても不釣り合いですよ。これ以上娘に傷を付けたくないんでね、ここはお引き取り下さいませんかな」
父の布団の上に投げ出された握り拳が震えている。
「あの時の、僕の判断は早まっていたと思います。もっときちんとお父さんにわかってもらってから進めるべきでした。でも、あの時も、今もずっと真琴さんを大切に思う気持ちは変わりません。これから先も変わることはないとはっきり言い切れます」
父はちらっと彼の方に視線を向けた。