湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「わかりました。しばらく寂しいけれどがんばります。澤井さんも体に気をつけてお仕事がんばって下さい」

今、私が泣き言を言ったらきっと彼は安心してニューヨークに発つことができない。

私は必死に涙を堪えて言葉を紡ぎ出した。

「真琴」

そう優しい声で私の名前を呼ぶと、彼にそのまま唇を塞がれる。

どれくらい長い時間唇を合わせていたんだろう。

呼吸がままならくて意識が遠のいていくような感覚に襲われた時、ふっと彼の唇が離れた。

そのまま澤井さんは私を強く抱きしめる。

「お父さんが一日も早くよくなって、店が軌道に乗るよう祈っているよ」

「ありがとうございます」

彼の胸の中で小さく呟く。

「どこにいたって、俺の心の中には真琴がそばにいる。だから真琴もたとえ会えなくても俺をそばに感じていてほしい」

私の体に回した彼の腕がさらに強くその胸に引き寄せた。

「お父さんに許してもらえるまで、俺はあきらめないから。何度だって会いに来る」

「・・・・・・すみません」

彼の言葉に一気に胸で押さえていた気持ちが涙になって溢れ出た。

「久しぶりに聞いたな、真琴の『すみません』。俺は何があったって大丈夫だって」

澤井さんはいたずらっぽく笑うと、「おしおき」と言いながら私の唇を再び塞いだ。

彼が愛おしい。

どこまでも続く道のようにその気持ちは続いている。

誰かを恋しいと思う気持ちは彼に教えてもらった。それが最初で最後の恋だったとしても彼となら構わない。何の後悔もないと清々しい程に思える。

キスをしながらそっと彼の頬に自分の手を当てると、彼はその手をぎゅっと握り締めた。


翌日、彼はニューヨークに飛んだ。









< 148 / 158 >

この作品をシェア

pagetop