湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「あ、あのお正月にスキーで転倒して肉離れ起こしちゃったんです」
「え?君も正月早々?そういえば、元旦のお昼過ぎ救急車がサイレン鳴らしてホテル前にきていたけれどひょっとしてそれ?」
「はい、お恥ずかしながら」
「そうか。丁度、彼女が俺の部屋を出ていった時だ。正月早々、俺と同じくついてない奴がいるんだって実はちょっと安心してたんだ」
「ひどい」
いたずらっぽく微笑む澤井さんに思わず私も吹き出した。
彼の微笑む姿に不思議な感覚が私を襲う。
同じ時間にそれぞれに起きたついてない出来事。そして今二人で並んで笑い合ってる。
時空を飛び越えてこの場所に飛んできたような錯覚。
こんなの初めてだった。
だけど、今日で澤井さんとはお別れだ。
明日の朝一で仕事のため山を下りると言っていた。
この素敵な王子様も、これまでと同じように私の人生の中で一瞬すれ違っただけの人。
それ以上でもそれ以下でもなくて、私のこれから先の人生に影響を及ぼすほどの存在にはならない。
恋愛経験0のまま、まもなく20代を終わらせてしまう私に神様が少しだけ見せてくれた束の間の夢。
「谷浦さんに会えてよかったよ。少なくとも俺は君に救われた」
「私もです」
新年ついていないもの同士の妙な連帯感。
澤井さんは午後からは部屋で仕事をすると言う。それが本当なのかはわからない。
私といてもつまらなかったからついた優しい嘘なのかもしれないと思いながら頷く。
「じゃ、またどこかで会えたら」
そう言って私の前に差し出された澤井さんの手のひらはやっぱりとても繊細で大きかった。
その手をそっと握ると思いの他強く握り返されて驚く。
きょとんとした顔で澤井さんの顔を見上げると、その目はさっき私に謝っていた時みたいに意思を殺したような正面を見据えた目だった。
しばらく握っていた手がゆっくりと離れ、触れていた最後の人差し指が離れた時、胸の奥がキュンとなる。
澤井さんは軽く笑って頷くとその場から去っていった。
彼の座っていた椅子の凹みを見つめながら、私は残っていたカフェオレを飲み干す。
そして、亜紀からもらったクッキーを一つ袋から出してかじった。
「甘・・・・・・」
なぜだか涙が出そうになって、必死に堪えた。
「え?君も正月早々?そういえば、元旦のお昼過ぎ救急車がサイレン鳴らしてホテル前にきていたけれどひょっとしてそれ?」
「はい、お恥ずかしながら」
「そうか。丁度、彼女が俺の部屋を出ていった時だ。正月早々、俺と同じくついてない奴がいるんだって実はちょっと安心してたんだ」
「ひどい」
いたずらっぽく微笑む澤井さんに思わず私も吹き出した。
彼の微笑む姿に不思議な感覚が私を襲う。
同じ時間にそれぞれに起きたついてない出来事。そして今二人で並んで笑い合ってる。
時空を飛び越えてこの場所に飛んできたような錯覚。
こんなの初めてだった。
だけど、今日で澤井さんとはお別れだ。
明日の朝一で仕事のため山を下りると言っていた。
この素敵な王子様も、これまでと同じように私の人生の中で一瞬すれ違っただけの人。
それ以上でもそれ以下でもなくて、私のこれから先の人生に影響を及ぼすほどの存在にはならない。
恋愛経験0のまま、まもなく20代を終わらせてしまう私に神様が少しだけ見せてくれた束の間の夢。
「谷浦さんに会えてよかったよ。少なくとも俺は君に救われた」
「私もです」
新年ついていないもの同士の妙な連帯感。
澤井さんは午後からは部屋で仕事をすると言う。それが本当なのかはわからない。
私といてもつまらなかったからついた優しい嘘なのかもしれないと思いながら頷く。
「じゃ、またどこかで会えたら」
そう言って私の前に差し出された澤井さんの手のひらはやっぱりとても繊細で大きかった。
その手をそっと握ると思いの他強く握り返されて驚く。
きょとんとした顔で澤井さんの顔を見上げると、その目はさっき私に謝っていた時みたいに意思を殺したような正面を見据えた目だった。
しばらく握っていた手がゆっくりと離れ、触れていた最後の人差し指が離れた時、胸の奥がキュンとなる。
澤井さんは軽く笑って頷くとその場から去っていった。
彼の座っていた椅子の凹みを見つめながら、私は残っていたカフェオレを飲み干す。
そして、亜紀からもらったクッキーを一つ袋から出してかじった。
「甘・・・・・・」
なぜだか涙が出そうになって、必死に堪えた。