湖にうつる月~初めての恋はあなたと
年明けの初滑りで、思いっきり転倒。

マンガじゃないかしらと思うようなゴロンゴロンっていう雪だるまにならんばかりの勢いで転がった。

スキー板はすぐに足から外れたものの、右足のふくらはぎは肉離れ。

救急で行った整形外科で「お正月早々大変だね」なんて言われた。

全治1ヶ月だそうだ。

幸先が思いやられる新年の幕開けに、気分まで落ち込む。

社員達は皆私を気の毒な目で見ているけれど、最終的には全員滑りに行ってしまった。

ま、そりゃそうだよね。

スキーしに来てるんだもん。

負傷者相手に1日過ごしてくれる相手なんかいるわけがない。

亜紀ですら、だもんね。

そんなことはもうどうだっていい。

あと2日、この状態で一人ホテル番していることが辛い。

皆今頃男女和気あいあいと楽しく滑っていることだろう。

なんてたって若手社員のスキーツアーだもん。

こういう集まりで将来の伴侶を捕まえるのよ!なんて言う先輩たちの話をよく聞かされていた。

そんなせっかくの機会にこんな風になっちゃう運のなさにつくづくうんざりする。きっと、私の人生、ろくな恋愛経験もせずにいよいよ29歳を迎えることになるんだろう。

クリームソーダーをストローで吸いながら、1階ロビーの全面窓ガラスの向こうに見える雪山に目をやった。

青空に映える雪山がキラキラと眩しい。

テーブルの上に置いたスマホがふいに鳴る。

開くと、亜紀からのLINEだった。

【てっぺんまできたよー】

って書いてある下に頂上からの美しい雪山の眺めの写真がアップされている。

律儀な亜紀には全く感謝だ。

だけど今はそんな写真を見せつけられると余計に落ち込む。

軽くため息をつきながら、
【ほんとだ~きれい!】と返信しスマホの電源を切った。

残りのクリームソーダーを一気に飲み干すと、部屋に戻って一眠りするべくテーブルに体重をかけながらゆっくり立ち上がった。

隣の椅子にひっかけた松葉杖を手にしようとしたまさにその時、ガツンと背中ににぶい衝撃。

そのまま私は体を立て直す術もなく床に向かって不様に倒れた。
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