湖にうつる月~初めての恋はあなたと
そんな笑うような話だったっけ?

澤井さんは、私がきょとんとした顔で見ていることに気付くと言った。

「いや、ごめん。君ってやっぱりおもしろいよ。こんなに笑ったの久しぶりだ」

「そんなおもしろい話をしたつもりはないんですが」

少し不愉快な気持ちで言い返す。

「そうだよね。全くそうだ」

と言いながらも尚笑い続けた。

「でも、よくそこまで相手に言い放ったよ。ある意味尊敬する。しかも相手はトップクラスの医者だろ?相手のプライドは一気にがた落ちだろうね」

私、そんなひどいことしたの?

「それは私のこと馬鹿にされてるんでしょうか」

「そうじゃないよ」

澤井さんは、ようやくふぅと息を吐いて笑うのを止めた。

「普通、恋愛に自信のない子は皆黙りこくっちゃうもんだけどね。初めて会った時も感じたけれど、君は驚くほど頭の回転が早くて、意志の強さがある。それはとても魅力的だよ」

「私にはよくわかりません」

「だろうね。きっと無意識の中で君のその回転の良さは使われてるだろうから。でもお見合い相手もそこまで言い放った君を魅力的だと言っていただろう?もっと谷浦さんは自分の思うがままに話したり行動したりする方がいいんじゃない」

「そうしたら、誰か私のことを愛してくれるんでしょうか」

私は顔を上げて、じっと澤井さんの横顔を見つめた。

その問いに対して、何か期待していたわけじゃない。

彼の言うように思うがまま言葉にしただけだった。

「そうだね。その前にもう少し男のことを知らないといけないと思うけど」

澤井さんは前をむいたまま、妙に真面目な顔で答えた。



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