湖にうつる月~初めての恋はあなたと
どんな風にして部屋に戻ったのか記憶にない。

気付いたら自分の部屋のベッドの脇に松葉杖を立てかけ、そのままうつぶせになって倒れ込んでいた。

うつぶせが苦しくなって仰向けになってみる。

だけど胸のドキドキは治まらない。

なんなの?これ。

どうしたって、自分の鼓動を冷静にできなかった。

大きく息を吸って吐いた。

さっきの見目麗しいイケメン男性の顔がふと脳裏で揺らぐ。

一気に顔が熱くなる。

あんな素敵な雰囲気の男性、今までの人生で出会ったことがあっただろうか。

受付嬢という仕事柄、色んな男性は見てきたはずだけど。

しかも、そんな彼の胸に抱き留められるなんて!

まだその腕と胸の感触が体に残っている。

胸の辺りが火照ってきたので気持ちを落ち着かせようとベッドから起き上がる。目の前の鏡に自分の顔が頬を染めた私をじっと見つめていた。

なんの変哲もない、どこにでもいるような顔。

きっと一度会っただけじゃ忘れてしまうような印象のかけらもない顔なんだろう。

気を取り直して、奥二重の小さな目を三日月にして笑ってみるけど、丸い顔が一層丸く引き立つだけだった。

小さなだんご鼻を高く見せたくて指で詰まみ、目を思い切り大きく見開いてみる。

変な顔!

思わず一人で何やってんだろうと鏡の自分に大きな声を立てて笑ってしまった。

その時、部屋の電話がピルルル・・・・・・と軽やかな音を響かせる。

慌てて受話器を取るとフロントからだった。








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