湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「でも、やっぱり澤井ホールディングスのエリート御曹司。所詮私達には到底叶わない相手だわ。仕事はできる、頭はいい、顔もルックスもよし。そんな男性、女性達がほっとくわけがない。社内社外問わず、かなりモテるらしくて言い寄ってくる数は驚異的らしいわよ」

亜紀は少し興奮気味に話していた。

だけどその澤井さんの話は私の知らない誰かの話のように耳に流れている。

そんなこと、聞かなくたってわかってた。

私には手の届かないような人で、私みたいに恋愛経験0みたいな女性なんか相手にするはずもない。

きっと言い寄ってくる女性は容姿端麗で素敵な女性もたくさんいるはずだ。

女性には興味がないって私に言うけれど、私に興味がないってことを必死に伝えてるだけなんじゃないの?

一緒に住もうだなんて言ってたけど、それは私が無害で見ていたらおもしろい飽きない相手だから。

ただそれだけ。

「今までたくさんの女性と付き合ってたらしいけど、今は彼女はいないらしいの。これはトップシークレットなんだけど、彼には忘れられない女性がいるんだって。だから誰とも結婚する気がないらしいわ」

胸の奥がざわざわしていた。

またあの写真の女性がふと頭によぎる。

「その女性って、数年前に事故で亡くなったんだって。でもあれだけのイケメンで一途にその彼女を思い続けてるって、切ない話だよねぇ。とりあえず、真琴とのお見合い話流れたんなら、それはそれで結果的にはよかったかも」

途中から亜紀の声は私には聞こえなくなっていた。

耳を塞いでるわけじゃないのに、聞こえない。

数年前に事故で亡くなったって、あのピラミッドの絵を描いてた女性だ。

どこどなく寂しそうにその絵を見つめる澤井さんは、その人への思いが溢れるのを必死に堪えていたんだ。

「真琴?ちょっと大丈夫?」

目の前で亜紀が心配そうに私の顔を見つめていた。







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