湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「あ、うん。大丈夫だよ」

「真琴、ひょっとして澤井さんのこと・・・・・・?」

私は少しだけ笑って首を横に振った。

「そんなわけないじゃない。だって、スキーの時一度会っただけなんだから」

「それならいいんだけど」

亜紀まで泣きそうな顔で私を見つめている。

普通にしようとすればするほど、わざとらしくなるもの。

私は黙ったまま既に飲み干したカフェオレボールの底に視線を落とす。

あの後、どんな会話をして、どんな風にもと来た道を戻り亜紀と別れたのかも覚えていない。

気がついたら自分の部屋のベッドにうつぶせに倒れていた。

部屋のドアがノックされる音が聞こえて、重たい体を起こす。

「おい、さっきから呼んでるのに、晩御飯食べないのか」

ドアの向こうで父の声がした。

父は極めて普通っぽく声をかけているけれど、帰ってきてから何も言わず部屋にこもってしまった私をかなり心配してる声色。

だめだね。心配かけちゃ。

「うん。すぐ行く。先に食べてて」

「わかった。待ってるぞ」

父のスリッパの擦れる音がゆっくりと遠ざかっていく

ベッドに座り、スマホを起動させる。

LINEに澤井さんからのメッセージが届いていた。

こんな気持ちになってる時に限って彼からのメッセージが届くなんて。

それなのに、澤井さんの名前を見ただけでまだ胸が高鳴ってしまう自分が不憫に思えた。




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