湖にうつる月～初めての恋はあなたと
「澤井さんは、最近お仕事忙しそうですけど疲れてませんか？」

彼の優しい言葉に癒されながら尋ねる。

「ありがとう。忙しいのは今に始まった訳じゃないから大丈夫だよ。こないだから新規プロジェクトの会議が続いていてね。今はそのプレゼンの製作やデータ収集に忙しいんだ。じき落ち着くと思う」

彼は優しく微笑み頷くと言った。

落ち着いたら、澤井さんはニューヨークへ行ってしまうんだろうか。

気になるけれど聞くのが恐くて聞けない。

「来週末、久しぶりにゆっくり休みが取れたから出かけようか。そうだそろそろ桜が見頃じゃない？」

「あ、そういえば、私がお花見企画するって言ってましたよね。すっかり忘れてました」

「やっぱりそうか。忘れているような気がしてたよ。来週はお花見しよう。行き先は真琴に任せるよ」

彼は笑いながら缶ビールを傾ける。

お花見、どこがいいだろう。澤井さんが喜んでくれるような場所。

寝る前、スマホで一生懸命調べていると、ある女性のおすすめ投稿記事に目が留まる。

小高い丘の上にそびえ立つ一本の大きな桜が緑の草原に覆い被さるように淡いピンクの花を咲かせている画像がアップされていた。

緑の草原には優しい風を感じる。

一本桜の包み込むような形も美しくて他の桜の画像も何点か見たけれどそれ以上に印象に残る桜はなかった。

場所は都心から車で一時間ほどで行けるようだし距離的にも問題ない。

ここがいい。その場所を手帳に書き込んだ。
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