湖にうつる月～初めての恋はあなたと
澤井さんはホテルに帰り、部屋に入ると私をすぐに背後から抱き締めた。

そして、私の頭、耳、頬に優しく触れるようなキスをする。

そういうことが初めての私が怖くないようにゆっくりと触れていく。

私を彼の正面に向けると、彼は潤んだ瞳で言った。

「真琴が欲しい。抱いてもいいかい？」

そして私の唇をふさいだ。桜の前のキスよりももっと深くて長いキス。

必死に彼の動きについていく。

ようやく彼の唇が離れ、正面から強く抱き締められる。

「こんなこと、君のお父さんが見たら怒るだろうね」

そう言った彼は目を伏せて続けた。

「嫌だったら君がいいっていうまで待つから」

「私、澤井さんだったら傷付けられてもいいって思います」

澤井さんは、「え？」という顔をしてまた私の方に視線を上げる。

「まいったな」

そう小さく呟くと私の頭を自分の胸に抱き寄せた。

「この年になって、こんなにも誰かに触れることが恐いと思ったことは初めてだよ」

彼の胸はとても熱くて、心臓の音が間近に聞こえるほど大きく震えているのがわかった。

「大人の本気の恋愛って、結構やっかいなもんだな」

澤井さんは苦笑しながら私の耳元でささやく。

本当にやっかいだ。

どうしてこんなにも一つ一つ前に進むのが恐くて躊躇われるのか。

若いうちにいっぱい恋愛しとくべきだったなんて思ってみるけど、今更だよね。

だけど、澤井さんが初めて心から好きになった人でよかったと心から感じていた。

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