湖にうつる月～初めての恋はあなたと

８.嫉妬の代償

８．嫉妬の代償


「えー！それ本当？！」

亜紀が飲みかけのライチソーダーのストローから口を離し素っ頓狂な声を上げた。

「うん、今まで黙っててごめんね」

私は首をすくめてうつむいた。

澤井さんと同居するようになって、さすがに毎日顔を付き合わす亜紀には嘘が突き通せなくなっていた。

「それってすごいじゃん。将来は澤井ホールディングス社長夫人？」

「まだそんなのわからないよ」

「初めての彼氏があの澤井家の御曹司でしかもスーパーイケメンとは。真琴も隅に置けないなぁ。忘れられない女性以上の存在になったてことでしょう？ほんとすごいよ！」

そう言いながら亜紀は私の両手をぎゅっと握った。

『忘れられない女性』という言葉が亜紀の口から発せられた途端、一昨日の晩のことが頭を駆け巡る。

思い出したくないけれど、しっかりと脳裏に焼き付いてしまった事実。



その日、毎晩のように帰りが遅い澤井さんは疲れ果てて、家に持ち帰った仕事をそのままにしてソファーで寝てしまった。

私は無造作に置かれたバッグを起こしテーブルにバラバラになった書類の束を揃える。

仕事の手伝いはできないけれど、少しくらいは彼の役に立ちたくて。

ようやく片付いたと思ったら、テーブルの下に落ちていた彼の黒い革の手帳を見つけた。

手帳の中身なんか見るつもりは全くなかった。

だけど、手帳から半分はみ出している写真が見えてしまった。

その写真には、以前彼の部屋で見つけたフワフワの髪のかわいらしい女性と澤井さんが二人で楽しそうに笑ってる写真。二人のバックにはこの間彼とお花見したあの美しいしだれ桜が咲き誇っていた。

「これは･･････」

そのしだれ桜を見た途端、息苦しいほど鼓動が激しくなっていく。

二人で桜を見た日、一瞬影を落とした彼はきっとこの女性を思い出していたんだ。

彼女がまだ元気だった頃、澤井さんはあの桜を一緒に見ていた。

彼にとって忘れられない女性。