山猫は歌姫をめざす
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大きく伸びをして、朝もやの中で未優は深呼吸する。

周囲をぐるりと緑の木々が囲んでいた。露に濡れた葉が、朝日を受けて、輝く。

扇状に張り出した屋外の舞台の上に、未優はいた。
──“歌姫”になるための、自主練習。

未優の声は、高く澄んでよく響いた。透明な歌声は辺りの空間を震わせる。
ステップを踏む足は、軽やかなリズムをとり、小気味良い音を立てていた。

くるり、と、一回転、宙を舞った直後だった。
朝露に濡れた舞台に足が奪われ、バランスをとろうとしたために、さらに勢いよくその場で滑って転んでしまう。

(ったたたた……山猫のくせに、情けない……!)

「──(くじ)いたのか?」

足を押さえて尻もちをついた格好の未優は、突然降ってきた聞き覚えのある低い響きの声に、顔を上げる。

漆黒の前髪の奥から、青い瞳が、こちらをのぞきこんでいた。留加──犬飼留加だった。

差し出された片手にとまどっていると、それを足の痛みだと思ったらしい留加は、未優の足元にかがみこんだ。押さえた足首に、手が伸ばされる。

「あああのっ……えっと、何で……?」

動揺を隠しきれない未優の前で、留加は表情を変えずに彼女の足の状態を観察していた。

「朝露の湿気はヴァイオリンには良くないが、個人的にはこの静かな空間を気に入っている。……ところが、先客がいた。

君だ」
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