山猫は歌姫をめざす
遠くを見つめ、淡々と留加は事実を告げた。

『犬族』は六つの“種族”中、力関係は一番格下。そのうえ“混血種”ともなれば、どこでも差別を受けるのは必然だった。
住む場所も、職業選択も、何か一つサービスを受けるにしても、扱われ方が違う。

「そう、なの……?」
「あぁ」

『山猫族』は『犬族』のひとつ上の格という【低さ】だが、未優は“純血種”で、しかも『山猫』の本家イリオモテの血をひいている。
“希少種”は、他“種族”からも一目置かれ、敬意をはらわれるものだ。未優が“種族”上の「差別」を感じたことがなかったのは、仕方がないのかもしれない。

未優はうつむいた。自分の世間知らずには、ほとほと嫌気がさしてきた。

「留加……あたしって、ホント、留加の言った通り、バカだよね」

苦笑いが浮かぶ。きっと【知る】チャンスはいくらでもあったはずだ。
───政治家としての父と関わり、十九にして一族の重要なポストに就いている慧一に、教わりさえしていれば。
だが未優は、それらを興味のないものとして切り捨て、好きな歌や踊りにしか目を向けずにいた。

(好きなことだけして、生きてきた)

そして、今、“歌姫”になって夢を叶えた───最高の、自分が望む形で。
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