山猫は歌姫をめざす
未優の“奏者”として、あるまじき行為だ。そう思い、留加は頭を下げる。

「すまない。君のために弾くと、約束していたのに……おれは、未熟だな」

留加の言葉に、未優はくすっと笑う。

「前に留加、言ってくれたよね? お互いのこと、理解した方がいいって。あたしが必要ないのかなって言った時、そう答えてくれた」
「……あぁ」
「それって、一度や二度合わせたからって、理解できるものじゃないってコトだよね?
一緒に合わせて……作り上げていく。その過程で、相手のことを知っていくのが「理解」じゃないのかな?」

未優のいわんとしていることに気づき、留加は微笑んだ。その通りだった。

「だから、謝らないで。これからも一緒に、試行錯誤していこうよ。きっと、そのほうが楽しいと思う」
「楽しい……?」

オウム返しに言って、留加は未優を見つめた。
こくりと、未優がうなずく。

「うん。……留加は、楽しくない?
あたしは、さっき一人で歌ってた時より、留加にヴァイオリンで合わせてもらった時のほうが、楽しかったよ? たとえ、音が合わなくても」
「そうか」

相づちをうって、留加はふたたびヴァイオリンを構えた。傾けた顔のまま、やわらかな微笑を浮かべる。

「それでは、もう一度合わせても良いだろうか」
「うん、喜んで」

未優も笑って、そしてふたりはもう一度、同じ旋律を奏で始めた。



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