山猫は歌姫をめざす

†††††

涼子に連れられて、未優は留加と共に食堂のある別館へと足を運んだ。
食堂と厨房の他に、医務室・談話室・トレーニングルーム・洗濯室などもある。
そこは、未優の部屋のある従業員寮と“歌姫寮”の中間に位置していた。

“歌姫”の未優が“歌姫寮”に住まわないのは、客を寄せることも兼ねているため『禁忌』の部屋は従業員寮にあるのだ。

「みんな、そろったね? そんじゃ、新入りのナイチンゲールを紹介するよ。
『禁忌』の未優だ」

テーブルについた“歌姫”達を確認し、響子が声をあげた。
瞬間、さざ波のようにざわついていた空間が、しんと静まり返る。

顔を見合せる者、遠慮がちに未優を見る者、まるで無関心な者……と。反応は様々だったが、沈黙にあっても興味がないわけではないようであった。

未優は心持ち緊張していたが、なんとか笑顔をつくり、思いきって口を開く。

「未優、17歳です! 先輩方に負けないよう頑張りますので、どうぞ、いろいろ教えてやってください! よろしくお願いします!」

勢いよく頭を下げたが、気まずい空気が広がるだけで、未優はそのままの姿勢で固まってしまう。

(……空気、重いんですけど……)

それでも、いつまでもそうしているわけにもいかず、おそるおそる未優は顔を上げた。
< 107 / 252 >

この作品をシェア

pagetop