山猫は歌姫をめざす
【6】しおれる花と王女の願い
6.
「献立は涼子さんが考えてこの冷蔵庫に貼っといてくれるから、それを作って。
慣れるまでは清史朗さんが手伝ってくれると思うけど、あんまり頼ってると彼の『ファン』ににらまれるから、そのつもりで」
抑揚のない声で言って、未優をうながす。
「次、洗濯ね」
ショートカットにした黒髪の頭を見上げながら、未優はそのあとに続いた。
『踊り子』のさゆりと名乗った背の高い女性。19歳だと、自己紹介では言っていた。
“第三劇場”では新人の“歌姫”と“地位”の低い“歌姫”が、他の“歌姫”のために炊事や洗濯を当番制でするらしく、未優はその説明を受けているところだ。
さゆりはとりつくしまもないほど、淡々とした語り口で話す。
「あんた『禁忌』だから、“歌姫寮”じゃないんだっけ? じゃ、当番の日は、早起きしたほうがいいよ。他の人より時間ロスすると思うし」
別館と“歌姫寮”をつないだ通路を歩きながら、さゆりが言うのを聞き、未優はうなずいた。
従業員寮から別館までが歩いて5分はかかり、さらに別館から“歌姫寮”までが2、3分かかるからだ。
「───以上。何か訊きたいことある? ないなら、説明終わり」
無気力なほどに力のない瞳で、さゆりは未優を見る。
「えぇっと……トレーニングルームって、いつでも使っていいんですか?」