山猫は歌姫をめざす
留加は未優と視線を合わせ、目元をふっと和らげた。

「良い声だった。大気を震わせて、よく響く歌声だ。君は──」

そこで、留加は一瞬、言いよどむ。
ふと思いついたように指を上げ、未優の頬にかかった髪をかきあげた。
その視線は、彼女の“ピアス”に注がれている。
ややして、おもむろに指を離した留加は、目を伏せた。

「ぶしつけな真似をしてすまなかった。確認したかっただけだ……君が、『山猫』の“純血種”だということを。
それなのに、君は……」

青い瞳が、ふたたび未優を捕える。留加の顔に、苦い笑みが浮かんでいた。

「“歌姫”に、なりたいのか……」

未優はうなずいた。留加の言いたいことが、解らなかった。

「そうか」

聞き取れないくらいのかすれた声でうなずいて、留加はちらりと未優の足に目を向ける。

「歩けないようなら、モノレール乗り場まで腕を貸すが。どうする?」
「多分、だいじょ──」
「必要ない。それより、『犬』の“混血種”の分際で『山猫』の本家当主の娘に触れるとは、いい度胸だな」

割って入った声に、二人は同時にそちらを振り向く。……気配を殺して近寄る技術は、『山猫族』の十八番だ。

慧一は目付きが悪かった。
どちらかと言うと美形の部類に入るだろうに、いつ見ても鋭い眼光は、未優に般若の面を連想させる。

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