山猫は歌姫をめざす
───自分と留加をつなぐのは“歌姫”と“奏者”という関係性だけなのだ。
留加が薫を冷たくあしらう態度に事実を再認識させされ、しかし、表面にはださないように未優は彼らの会話をさえぎった。

†††††

白金の髪を編み込みながら、清史朗(せいしろう)は言った。

「何か良いことでもありましたか?」
「あら、わかる?」

ふふっと笑うシェリーの顔を、鏡の中でのぞきこみ、清史朗はうなずく。

「わかりますよ。あなたとの付き合いは、長いですからね」

“舞台”のために装う彼女を手伝って、早七年が経つ。その間、彼はその一挙手一投足を気にかけてきたのだ。

「新しく入ったナイチンゲールに好きだって言われたの」
「それはそれは。電光石火の告白ですね」
「……可愛いわ、あの子。まだ“舞台”を見てないけど……筋は良いから、伸びるわね」

うなじの辺りまで編み込み、花飾りを挿し入れると、清史朗は微笑みながら尋ねた。

「ではいずれ、あなたの良い好敵手(ライバル)になりますね」

清史朗の言葉に、シェリーは手にした花飾りの先端を彼の喉元に向ける。

「甘いわね、シロー」

灰色がかった青い瞳が、鏡の中にいる清史朗を見据える。

「舞台に【あがれなければ】ライバルになんて、なりようがないわ」
「……そうですね。軽口が過ぎました」

清史朗はサッと目を伏せる。シェリーの言う通りだった。
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