山猫は歌姫をめざす

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トレーニングルームに掛けられたホワイトボードを見上げ、未優はあることに気づき、穏やかではなくなった。
そこには、基本的な一週間の公演スケジュール表と、実際に行われる公演予定が書きこまれている。

(……これ見ると、あたしの出番なくない?)

もちろん、未優は新人の“歌姫”で、いきなり“舞台”に立てるなどとは思っていない。
だが、『王女』二人を中心に組まれた公演日程は、一番下位の“地位”である『踊り子』からして、一ヶ月に一度ないしは二度“舞台”に立てれば良い方というような日程なのだ。

(そりゃ、あたしの“歌姫”としての経験は皆無だけど、でも“舞台”に立てなきゃ、その経験さえ積めないよ……!)

趣味で“歌姫”をやるのではない。それによって収入を得ようと考えたら“舞台”にあがれなければ、当然、入ってくるものも、こない。

未優は支配人室の扉を叩いた。

「おや。やっと気づいたようだね、未優」

中に入ると、例によって大机の前に腰かけた響子と、その秘書の涼子、そして“歌姫”世話係の清史朗と、なぜか薫がいた。

薫は、黒のフロントフリルのシャツに、襟もとにピンブローチ、臙脂(えんじ)色のホルターネックのベストを着ている。
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