山猫は歌姫をめざす
その続きは未優ではなく、彼女の後ろにいる慧一に向かって投げかけられる。

「才能を生かすも殺すも環境次第だ。君の置かれているそれは、諸刃の剣のように、思う」

言い残して、留加はふたたび歩きだした。今度はもう、呼びかけても振り返りはしなかった。

未優は側に立つ慧一を見上げる。

「もう、意味わかんないっ。しかも、あんたにしゃしゃり出て来られたおかげで、せっかく留加にまた会えたのに、連絡先も訊けなかったし」
「悪かったな」

素直に謝られ、未優はびっくりして慧一を見返した。
いつもは小言しか言わない口が、どうしたのだろうか。

未優の視線に気づいたらしい慧一が、ムッと顔をしかめた。

「……まったくお前は……俺に面倒事しかもちこまないな。
いいかげん、立ち上がったらどうだ。スカートの中が向こうから丸見えだろう」
「うっそ!? ちょっとヤダ! そういうことは、早く言ってよ……。
っていうか、留加に見られていたのかな!? どーしよー……あーん、あたしのバカバカバカバカ……」
「心配するな。ああいう朴念仁は女のスカートの中身なんぞに興味なんてない。
だから俺も放っておいたんだ。……って、おい。痛いのか?」
「思ってたよりは。でも、歩けないほどじゃないけど」
「──本当に面倒な女だな、お前は」

大きく息をついて、慧一は上着のポケットから携帯電話を取り出した。
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