山猫は歌姫をめざす
「留加にはきっと“変身”を拒むだけの、どうしようもないわけがあるんだってことは、解る。
あんなに苦しんでいたんだもの。そんなにすぐに、自分の獣の部分を認められるわけがないってことも。
だけど……ちょっとずつでも、認めていってくれたらって思う。そうしたら、その分だけ、留加は幸せに近づける。
あたしは、そのためなら何度だって留加のために祈るし、歌うから。
何度でも、あなたのために歌う。“変身”の苦しみが少しでも癒えるように」

ふい……と、犬は顔を背けた。リズムをとるように尾が揺れる。

未優はもう一度言った。

「あなたに幸せになって欲しい。
……だから、“変身”する時は、教えてね。あなたのために歌うから」
『……君を、傷つけるかもしれない。今日だって……』

未優は首を横に振った。

「あなたは、あたしを傷つけない。傷つけるような人だったとしたら、獣になることを拒んだりなんてしないはずだもの。
だから、あたしを呼んで? ……それとも、あたしの歌じゃ役に立たないかな?」

急に不安になって、未優は留加に問う。短く、犬が鳴いた。

『そんなことは、ない』
「なら、良かった。……なんか嬉しくなったから、ちょっと歌ってもいい?」

笑いながら言う未優に、留加は歌うなと伝えてきた。その理由に、未優はますます笑いが止まらなくなった。

『───おれは今、ヴァイオリンが弾けない。不公平だ』



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