山猫は歌姫をめざす
【3】歌姫であることの証明
3.
ふう、と、未優は息をついた。留加を見ると、うなずき返された。
「歌はもう、問題ないだろう。あとは、語りと踊りか」
ヴァイオリンをケースにしまいながら、留加はわずかに眉をひそめる。
「そちらは、おれは専門外だからな。君の力になれなくて、申し訳ないが」
「ううん。あとは、あたしの努力次第だから。……じゃ、お休みなさい」
「また、明日」
かろうじてわかる微笑みに、しかし未優の心は踊る。
……寝る前に、留加の笑顔が見られたことが、嬉しい。
部屋に戻ってシャワーを浴び、あとは眠るだけとなっても、なんだか寝つけなかった。
実は、ここ数日間、ずっとだ。
留加の“変身日”が終わってからというもの、留加とする音合わせが楽しくて仕方なかった。
(だって、なんか、留加が優しい気がする……)
声音も表情も、一緒にいる時の空気でさえ。
気のせいだと言い聞かせても、はやる胸の内は押さえようもなかった。
(ダメだ……! やっぱり今日も眠れない……!)
がばっと勢いよく、ベッドから身を起こす。大きく息をついた。
(こんなに眠れないなら、いっそ練習しちゃおうかな)
思いついて、練習着に着替え、トレーニングルームへと向かう。
夜気はやはり冷たく、火照った頬に心地よかった。