山猫は歌姫をめざす
(あ……)

トレーニングルームには灯りがついていた。ガラス扉越しに室内の様子が見える。
銀の髪の持ち主だ───『王女』の(あや)が、何かの「舞い」を踊っているように見えた。

(キレイ……)

流れるような優美な動作はシェリーのような華やかさはないが、見る者の心を清めてくれるかのようだった。

一連の動作が終了するのを見届けて、未優は扉を開けた。

「こんばんは、綾さん。すごく良いもの見せてもらえてあたしラッキーでした。
今の……なんの舞いですか?」

驚いたように未優を振り返った綾は、直後、露骨にイヤな顔をした。

「……あなた、ずっと見ていたの?」
「あ、えぇと……途中から。お邪魔しちゃ悪いかと思って、声かけなかったんですけど……」
「───いい機会だから、言っておくわ。私、あなたのこと嫌いなのよ」

向けられた眼差しに含まれる敵意に、未優は初顔合わせの時の綾を思いだした。
あの時は気のせいだろうと自分を納得させたが───。

未優は綾の深紅の瞳を見返し、とまどいながら問う。

「あの……あたし何か、綾さんに失礼なことをしましたか?」

綾は笑った。未優を(あざけ)るように。

「あなた、それ本気で訊いてるの? だとしたら、相当おめでたいわね。
……まぁ、だから、なんでしょうけど」
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