山猫は歌姫をめざす
「あぁ、相変わらず過保護なんだね、慧一は。
未優を傷つけようとする輩からの攻撃、全部かばってやろうっていうの? そういう《つまらない》優しさがのちのち未優に悪影響を及ぼすんじゃない?
実際、未優は本来知ってなきゃならない事実(こと)のほとんどを知らされてないし。
『山猫族』の《温室》の中に閉じこめておけたなら、それでも良かったかもしれない。
けど、今でも君がそれじゃ、彼女の成長の妨げにしかならないよ」

慧一は薫をにらみ据えた。その容赦ない眼つきの鋭さに、薫はおどけて肩をすくめた。

「ごめん。解っててもやめられないことってあるよね。僕だって、未優が留加のこと好きなのを、百も承知でアプローチしてるんだからさ。
ね、ほら、おあいこってコトで。この件は、これでおしまい。
じゃ、仕事に戻るよ。疑うのも無理ないけど、僕、仕事は手を抜いたりしてないよ?」
「……悪かったな」

とても反省しているとは思えない顔つきの慧一に、薫はひらひらと片手を振り去って行く。

「いーよ、もう。気にしてないし」

慧一は薫の背を見ながら、息をつく。痛いところを突かれた。

だが、薫は思い違いをしている。
慧一を突き動かしているのは未優ではない。慧一自身だ。

(俺は、俺の望むものを手に入れたいだけだ)

未優のためでも一族のためでもなく、自分自身のために、慧一は動いている。



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