山猫は歌姫をめざす
(やっぱりみんな、うまいなぁ……)

「歌声」を《武器》とする“地位”だけあり、三人共に、それぞれ他の“地位”の“歌姫”とは段違いの歌唱力を誇っていた。
……その三人の演じたあとで、未優が演じるのだ。

(うわ、緊張してきた……!)

身体が畏縮(いしゅく)し、思うように呼吸ができなくなる。
未優はあわてて、そんな自分をリラックスさせようと深呼吸した。

と、その時、綾がこちらを見ているのに気がつく。未優は、そんな綾を静かに見返した。

綾は未優が“歌姫”になったことを、「道楽」だと言った───趣味の延長でしかないと。

(でも、今は違うもの)

留加と合わせることにより、それは確信に変わった。
もう一度、いや、何度でも、あの舞台に立って、“歌姫”としての自分を実感したい。

そのためには、ここにいる他の“歌姫”に、未優の力を認めてもらうしかないのだ。

「───続いて、『禁忌』の未優さん、どうぞ」

清史朗にうながされ、未優は他の“歌姫”の視線を受けながら、トレーニングルームの中央へと進み出た。

†††††

(おやおや。短期間でよくもまぁこれだけ成長できたこと)

人差し指を立て、響子(きょうこ)はあごをつまんだ。

未優の踊りの技術力が、面接時より格段に上がっているのが見てとれた。
動きのしなやかさに加え、表現力が磨かれてきている。
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