山猫は歌姫をめざす
やがてすべての“歌姫”を回った薫が集計操作を行い、端末機を響子に手渡した。

「じゃ、結果を発表するよ。
『灰かぶり』第一幕、『偶像』愛美(まなみ)。第二幕、『偶像』───」

手元の端末機を見ながら、響子は抑揚もなく名前を読みあげていく。

「───第二幕、『禁忌』未優」

瞬間、未優の身体に鳥肌が立った。

選ばれた、自分が! あの舞台に、もう一度立てるのだ!

(留加と一緒に、また……!)

嬉しさのあまり、未優は、その場で飛び上がりそうになる自分を押さえこむのに精一杯だった……。


†††††


全体練習を終え、未優は一目散に留加の元へ向かった。

例によって防音室でヴァイオリンを弾いていた留加に結果を告げると、彼は静かにうなずいた。

「そうか。良かったな」
「……なんか、反応があっさりしすぎじゃない?」
「君の目的は、メンバーに選ばれることだったのか? “舞台”に立つことではなく」
「……“舞台”に立つこと、デス」

切り返されて、未優はぼそぼそと答えた。
留加の言うことは最もだが、もう少し喜びを分かち合ってくれてもいいのではないだろうか。

(一番に、この気持ちを伝えたかったのに……)

「それに君の歌声は、聴く者が聴けば、正当な評価が下るはずだ。
君に必要だったのは、その評価を下してもらう《場》だったんだからな。君が選ばれるのは、当然の結果だ。
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