山猫は歌姫をめざす

【5】触れることなかれ


       5.

「ブラーヴィー! 本番の“舞台”で観る前にちょっと得しちゃった気分だよ」

拍手と共に現れた薫に、未優は一気に脱力した。

(なんか、留加と二人だけの時間、邪魔された感じ……)

「何の用だ」
「あれ? 未優だけじゃなくて、留加もご機嫌ナナメ? ……ふうん」

意味ありげに薫に見られ、留加は眉を寄せた。

「君に、おれの機嫌をどうこう言われたくないが。何か用か」
「はいはい、さっさと本題ね。マダムが、君たち二人を呼んでるんだよ。支配人室に連れて来いってさ」

薫の言葉に、二人は顔を見合せた。
用件が、皆目見当もつかなかったからだ。

「何の用か、薫、聞いてる?」
「知らない」

見当はつくけどね、と、薫は胸中で付け加える。

未優は『禁忌』だ。
そして、今日聴いた彼女の歌声から察すれば、おのずと答えは導きだされる。

「さ、早く行こう! 待たせると、僕がマダムにしかられるからね」

言うなり、薫は二人の背中を押し、別館の方へと向かわせた。



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