山猫は歌姫をめざす
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「あぁ、来たね。じゃ、そこに座ってくれるかい? 坊っちゃんは世話係に戻っとくれ」
「……僕がここにいたら、マズイの?」
「坊っちゃんはすぐ、まぜっ返してくれるからねぇ。納得してくれないなら、支配人命令として言うよ。
───薫、仕事に戻んな」
響子は凄むようににらんだが、当の薫は物ともせず真正面からそれを受け止め、「ウィ、マダム」と、素直に支配人室を出て行った。
その後ろ姿を見送って、響子は思わず髪をかきむしる。
薫よりも公私の区別がつけられない自分に、腹が立ったのだ。
しかも、そんな自分がこれから若い二人に対し言おうとしていることは、欺瞞でなくなんだというのだろう。
……それが、二人に必要なこととはいえ。
「───さてと。前にも言ったが、アタシは遠回しな言い方が苦手でねぇ」
二人がソファーに座るのを見届け、響子は二人の真向かいに腰を下ろす。
「はっきり訊くよ。
───あんたら、もう寝ちまった仲だ、というわけではないだろうね?」
「なっ……」
未優は赤面した。
薫といい響子といい、なぜこうも、あからさまに性的なことを口にだせるのだろう。
それともこれは、『虎族』における性質的なものなのだろうか?
(しかも、留加のいる前でそういうコト、言わないでよーっ)
恥ずかしくていたたまれず、とても留加の方など見られなかった。