山猫は歌姫をめざす
響子は肩をすくめた。

「分かりやすくて結構なこった。
じゃ、本題だよ。未優、あんたは『禁忌』だ。それは解ってるね?」
「え? はい、解ってますけど……」

いまさらのような確認に、未優はあっけにとられてしまう。

テーブルの上のタバコを取り上げ、響子は火をつけた。ひと息つく。

「……最初にアタシが言わなかったのは、先走ってあんたらの関係を気まずくさせたくなかったからさ。
正直、あんたらの間に恋愛感情が生まれるかは、微妙だと思ってたしね」

ちらり、と、響子は留加を見やる。
視線の意味に気づいたのか、留加が目を背けた。

「『禁忌』は客をとらない。つまり、男と寝ないってコトだ。それが大前提である以上、例外をつくっちゃならない。
“歌姫”が娼婦であるにもかかわらず、それを生業(なりわい)にしない者を枠外に据えるなら、当然、私生活でも男と寝ないのが礼儀だろう? 客に対しても、同僚に対しても。
ムチャクチャな論理かもしれないが、客や同僚からすれば、恋人と寝ることが可能なら、娼婦の務めも果たせるはずだ、となるわけさ。
アタシの言いたいこと、解るかい?」
「……はい」

“歌姫”が公娼である以上、それが筋道であることは理解できる。
それなのに、未優は響子の言葉に不快感を覚えた。
< 154 / 252 >

この作品をシェア

pagetop