山猫は歌姫をめざす
(だったら留加に、あたしの“奏者”で良かったって、思ってもらおう)

そういう自分でありたいと、未優は自らの心に刻みつける。

「……今日は、緊張してないのか?」

ふいに声をかけられ、未優は留加を振り返った。

正装姿の留加を見るのはこれで二度目だ。何度見てもカッコイイと、胸のうちでこっそり感嘆の声をあげる。

(別に、心で想うのは自由だもんね)

舞台上では、『ラプンツェル』の第一幕が始まっていた。未優の出番は、このあとだ。

「ちょっとは、してるよ? でも、楽しみっていう気持ちの方が強いの。またあそこに、留加と一緒に立てるのが、嬉しい」
「そうか」

うなずいてから、留加はふっと笑った。

「おれも、楽しみだ」

その笑みに、胸の高鳴りを覚え、未優は思わず両頬を叩く。留加がぎょっとした。

「……どうしたんだ」
「き、気合いを入れてみたの」

ごまかすように笑う未優に、あきれたように留加が息をつく。

「そういう気合いの入れ方はどうかと思うが? 側にいる人間が驚かされる」

(っていうか、留加のさっきの微笑みが悪いんじゃんかー)

「……ゴメン」

思っても口にはだせず、しかしほどよい緊張感のなか、未優は“舞台”へとあがった───。



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