山猫は歌姫をめざす

【6】禁忌の初舞台──『ラプンツェル』


       6.

「おや? 新人だね。───『禁忌』の未優、か……」

プログラムに目を落とした茶色い髪の壮年の男がつぶやいた。

慧一は、男の側へと歩み寄り、一礼をしながら“ピアス”を確認する。『狼族』の“純血種”だ。

「失礼いたします。……プログラムに、何か?」
「ああ、私も全国の“劇場”を観てまわっているがね。新人で『禁忌』とは、何やら意味ありげだね」

“劇場”通の者にかかれば裏の事情など、すぐに読みとれることだろう。
そして、例え察したとしても、口にだしたりはしない。「粋」ではなくなるからだ。
だから慧一も、ただ微笑みを返すだけにとどめる。

「……恐れいります。
では、今宵の『禁忌』の初舞台ごゆっくり、ご鑑賞くださいませ」
「そうだね。楽しませてもらうよ」

慧一は一礼し、その場を去りながら、脳内の情報記憶のファイルを呼び覚ます。
茶髪にセピア色の瞳の“純血種”となれば、“血統”はグレートプレーンズしかない……。

───狼原(おおかみはら)誠司(せいじ)。大手電機メーカーの取締役だ。
本人も認めた通り、全国各地の“舞台”を観るのが趣味だった。

純粋に“舞台”だけを楽しみ、そして、これと思った“歌姫”には、大枚をはたいてチケットを購入してくれる、上客。
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