山猫は歌姫をめざす
「あの子の“解釈”、面白いわね。ラプンツェルが無知なお馬鹿さんに見えるわ」
「しかし、王子と出会ってからのとまどいと、恋に落ちる瞬間の表現力は、なかなかだったかと思いますが」
「あら。男心をそそられる?」
「───可愛いですね、私から見ても」

おそらく、鑑賞中の誰もが感じているだろうことを、清史朗が告げる。

シェリーは、ふっ……と笑った。

「綾は、《喰われる》わね。
『ラプンツェル』の“主演歌姫”は、あの子にとって替わられるでしょうよ」
「綾さんの“舞台”は、これからですが?」
「観なくても判るわ。綾の“舞台”はリハを含めて何十回も見てきたもの。
あの子は、人の心をつかめない。表現力も歌唱力も、『王女』になれるほどのものをもっているのにね。他人(ひと)を信用できない者が、人から愛されることはないわ」

切り捨てるような物言いに、清史朗は苦笑する。

「手厳しいですね」
真実(ほんとう)のことを言ったまでよ。
……でも、シローの目には、私は『灰かぶり』の義理の姉に見えて?」

シェリーのいたずらっぽい微笑みを、清史朗は穏やかに見つめ返す。

「あなたはいつでも、美しく聡明な『王女』ですよ」

ふいにシェリーが真顔になる。
彼は、どこまで解っていて、そう言うのだろうか───?
< 160 / 252 >

この作品をシェア

pagetop