山猫は歌姫をめざす
問いかけに、答えは望まない。
シェリーは舞台の方へと視線を向け、独りごちる。

「……そうね。私はいつまでも、『王女』でいるわ。そして───」

続く言葉は、いつもシェリーの胸のうちにあった。
その先を清史朗は問うこともなくおもむろに頭を下げる。

「そろそろ私は、もうおひとかたの『王女』の元へ参ります」
「……綾によろしく」
「お伝え致します」

そうして清史朗は、シェリーの元を去って行く。

(寂しくなんて、ないわ)

誰にも見せない微笑みを浮かべシェリーは思う。
彼はまた、自分の元に戻ってくるのだから───自分が、『王女』である限り。


†††††


今夜の“連鎖舞台”は、すべて滞りなく終わっていた。

客の“舞台”への感想を訊き、「サヨナキドリをご覧になりますか?」と問う。
「見る」と言われれば、端末機に映しだされる“歌姫”を紹介する。
……つまり、娼婦を買うかどうかの隠語である。

「───だったら、『禁忌』の未優をすすめますよ。今日の“舞台”も、良かったでしょ?」

耳にした言葉に足を止め、慧一はそのテーブルを振り返った。
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