山猫は歌姫をめざす
「や~確かに、あの歌声は聴きホレたねぇ。……じゃ、リクエストはあの子にするか。で、今夜は」
「もちろん、あたしに決定! では、のちほど」
慣れた仕草で客をあしらい、一人の少女が慧一の横を通りかかる。
すっ……と、その腕をつかみ、慧一は彼女に声をかけた。
「ちょっと、いいかな? ……“踊り子”の、さゆりさん」
「何。あたし客とりで忙しいんだけど」
ジロリとにらまれても、慧一はちょっと笑って先を続ける。
「なぜ、リクエスト欄に自分を売りこまないで、他の人を薦めたりするのかな?」
当日“舞台”のない“歌姫”が自らを売りこむために、V.I.P席で接客をすることはよくあること。
だがそれは、あくまでも“舞台”に自分が立つのと《引き換えの接客》でしかない。
「そんなの、あたしの勝手じゃん。手、放してよ」
慧一は彼女の腕をつかんだまま微笑みをくずさなかった。
さゆりはムッと眉を寄せたが、理由を説明しない限り放してはもらえないだろうことを悟ってか、口を開いた。
「あたしはね、頑張ってる人間がむくわれないのは、ヤなのよ」
その答えに、慧一は眉を上げた。
「もちろん、あたしに決定! では、のちほど」
慣れた仕草で客をあしらい、一人の少女が慧一の横を通りかかる。
すっ……と、その腕をつかみ、慧一は彼女に声をかけた。
「ちょっと、いいかな? ……“踊り子”の、さゆりさん」
「何。あたし客とりで忙しいんだけど」
ジロリとにらまれても、慧一はちょっと笑って先を続ける。
「なぜ、リクエスト欄に自分を売りこまないで、他の人を薦めたりするのかな?」
当日“舞台”のない“歌姫”が自らを売りこむために、V.I.P席で接客をすることはよくあること。
だがそれは、あくまでも“舞台”に自分が立つのと《引き換えの接客》でしかない。
「そんなの、あたしの勝手じゃん。手、放してよ」
慧一は彼女の腕をつかんだまま微笑みをくずさなかった。
さゆりはムッと眉を寄せたが、理由を説明しない限り放してはもらえないだろうことを悟ってか、口を開いた。
「あたしはね、頑張ってる人間がむくわれないのは、ヤなのよ」
その答えに、慧一は眉を上げた。