山猫は歌姫をめざす
「そう! 同じネコ科同士、仲良くしよ?」
「あ、うん。仲良くしようね」

久しぶりの同年代の少女との会話に照れくさくなりながらも、未優は嬉しくなって微笑む。

学生時代の友人のほとんどは、皆、結婚し子供を産んでいて、疎遠になってしまったのだ。
だから、同じ“歌姫”の友人ができるのは、喜ばしいことだ。
と、その時、咳払いが聞こえた。

「───盛りあがってるとこ邪魔してゴメンね。でも、ここはトレーニングルームだし、おしゃべりなら談話室でね?
それと『王女』の綾さんが、十六時からここを使うから空けて欲しいって、清史朗さんに言付かって来たんだけど」

すっかり従業員用の制服が板についた薫が、にこやかに告げる。

(慧一もだけど、薫も相当な「猫かぶり」だ……)

「はーい。行こう、未優」
「うん」

未優の手を引いて、愛美はそそくさとトレーニングルームを出て行く。
談話室へ向かいながら、愛美がホッと息をついた。

「……やっぱり薫サマって「王子」ってカンジだよね~」
「は?」

(薫サマ!? ってか、王子って……)

あっけにとられる未優の前で、愛美は夢見るようにうっとりした表情で続けた。
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