山猫は歌姫をめざす
談話室へ向かう通路の途中、未優はさゆりをやるせない気分で見上げる。

「あの……あたし、一人でも平気です」
「だろうね。見りゃ分かる。それより、あんたスリーサイズいくつ?」
「へ?」

質問の意図が解らず、未優はぽかんとさゆりを見返した。表情を変えず、さゆりがふたたび問う。

「スリーサイズ。いくつ?」

そっけなく言われ、おうとつのない自分の身体をうらめしく思いつつ、未優は重い口を開いた。

「……あっそ。あたしとそんなに変わんないね。胸がちょっと空きそうだけど、パッド詰めときゃいいだろうし。
じゃ、十分後にあんたの部屋行くから。待ってて」

言うなり、さゆりは身をひるがえした。方向から察するに、“歌姫寮”に行ったようだ。

(いったい、なんなの……)

不審には思ったものの、未優は言われた通り、自室でさゆりを待つことにした。

やがてさゆりが、手に何着かの色とりどりのドレスを持って現れた。

「はい、あんたにあげる。お客さんに買ってもらったモンだけど」
「え? ど、どうして……?」
「これからあんた、“舞台”に立つ機会が増えるだろうし。“舞台料”が入るのは、まだ先だろうから、衣装だって買えないでしょ。
《着たきりスズメ》もなんだし間に合わせにコレ着とけば」

淡々とさゆりが応える。未優は、まだ状況がのみこめなかった。
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